気候リサーチ発表+風課題ブレインストーミング+前先生小レクチャ
4/18(木)のスタジオの内容です。
・気候リサーチ発表
・風課題ブレインストーミング
・前先生小レクチャ
の3本立てでした。
まずは3班・乾燥帯のリサーチです。(一杉君・杉崎さん・米澤君)
○ヴァナキュラー建築
・採風塔と中庭を持つ住居(カイロ)
乾燥地帯に建つ南面に採風塔を持つ住居。
湿度が低く気温が高いため、採風塔による自然通風と中庭に設けられた池による気化冷却が有効。
夏は日陰となる南側が、冬は日向になる北側が主な居住空間となる。
また南側の採風塔が中庭に日陰を落としており、北側のヴォリュームに日陰を落とさず、かつ十分な通風効果を得られるような高さのバランスが重要である。
地下に潜って暮らす住居。
一日の中で寒暖の差が激しく、熱容量を大きくすることが快適性向上に有効。
地下に潜ることで、土の恒温性を利用し、快適に暮らすことができる。
・ケヅメリクガメ/プレーリードッグ/ミーアキャット(サハラ砂漠)
いずれも地中に穴を掘って生活する生き物。
砂漠は地上は昼間40℃を超えるため、年中15℃程度に保たれる地中で暮らすことで厚さを凌ぐ。
地面に掘られた巣の入り口は、盛り土がされており少し高くなっている。これは地表面付近を吹く風よりも、少し高い位置で風をキャッチすることでより換気量を増やすためではないか。
この形態は密集街区で風を取り込むための建築形態に結び付くかもしれない。
・砂丘
砂漠の風によって作られる地形。
砂丘の規模と形態は風向き・風速・粒子の大きさ・量・周辺地形等から決定され、三日月上のバルハン砂丘、横列砂丘、縦列砂丘などに分類される。
砂丘を形作る風の流れはこの地域に特有の砂除けのテントにも見られ、風が吹くことで生まれる負圧部分にテントが吸い寄せられ、風除け・砂除けの空間が生まれる。
・シャカイハタオリドリ
高い樹の少ない乾燥帯において、一つの樹に複数の鳥が集中して巣を作る。
乾燥した枝を重ねて作る巣は長期的に使用可能で、段々と巣は肥大化していく。肥大化した巣は高い遮熱性と断熱性を有する。
また、巣の下側に入り口が設けられ、日射を防ぐとともに、夜間は内部にたまった熱気を逃がさない工夫がされている。
・サボテン
植物が乾燥帯を生き抜くためには、強すぎる日射を防ぎ、蒸散を防ぐ必要がある。
サボテンは球に近い形をしており、同じ体積では表面積が小さい。
また、表面に襞を設けることで、表面積は増えてしまうが、自身に影を落とす効果がある。襞による表面積と影のバランスが重要。
○コメント
前先生:気候データを見ると、カイロも意外と湿度が高いがこれはなぜか?
湿度が高いと通風が、湿度が低いと蒸散が重要になってくるので、採風塔を持つ住居は理にかなっている。
季節変化だけでなく、一日の中の時間変化をもう少し分析できるとなお良い。
続いて5班・熱帯夏季少雨気候・サバナ気候のリサーチです。(能上さん・小林さん・藤山君)
○ヴァナキュラー建築
中南米・インド・アフリカの比較を行った。
いずれの地域でも板張りや茅葺の住居が多く、通風・換気を意識したつくりとなっている。
四角いプランが多い中、アフリカのみ丸い円形のプランが見られ、単純な一屋根に一世帯の住宅形式のみでなく、集合住宅のようなものや分棟の住宅なども見られた。
いずれの地方でも雨季と乾季が存在し、茅葺は雨季の前に茅きなおす。
○バイオミミクリー(植物)
乾燥から身を守るために、様々な部位が気候に適応している。
・葉・茎における適応化
サボテン・ユーフォルビアなどは、表面積の小さい球体で、また葉ではなく針とすることで蒸散を抑えている。
・幹における適応化
バオバブの幹内部はスポンジ構造となっていて、大量の水分を貯めることができる。
・葉・根による特殊化
アケビモドキは袋状で中空の葉と、その中に伸びる根を持つ。
袋状の葉で湿度を維持し、溜まった結露を根が再吸収する。
○バイオミミクリー(動物)
・キリアツメゴミムシダマシ(ナミブ砂漠)
乾燥する乾季の朝に朝露から水を得るのに適した形。
背中の部分が親水性のある凸部と疎水性のある凹部からなり、凹部にたまった朝露を凸部で回収することができる。
・サケイ類(ユーラシアとアフリカの砂漠)
飛べないひな鳥に水をやるために、親鳥がスポンジのような腹部の羽毛に水を吸収させて運ぶ。
○コメント
前先生:結露が起こるのは、砂漠の一日の寒暖差が大きく、夜間・明け方は気温が下がるから。また空気が乾燥していると、夜間放射冷却が大きくなり、日較差が大きくなる。
続いて2班・温帯のリサーチです。(矢吹君・石綿さん・大國さん)
○ヴァナキュラー建築
・多摩丘陵の民家(東京:Cfa:温暖湿潤気候)
高温多湿の日本の夏対策として、高床・土間・換気のしやすい大開口・分厚い茅葺屋根と深い軒などが特徴として挙げられる。夏を旨としたつくり。
・校倉造の民家(チェコ:Cfb:西岸海洋性気候)
直径30~40㎝の丸太を積むことで、分厚い外皮を形成。丸太と丸太の間には土や漆喰を塗り、気密性を高めた。冬を旨としたつくり。
・ヤオトン(中国:Cw:温暖冬季少雨気候)
黄土高原の土が柔らかく、また黄砂を避けるようにして作られた。年較差が大きく、安定した快適性を得るために地中に作られている。粉塵の侵入を防ぎ、低温乾燥した地域に適した、冬を旨としたつくり。
・白い家(アテネ:Cs:地中海性気候)
地中海性気候では、降水量が少なく、夏は特に乾燥してかつ日射が強い。
白い壁にすることで赤外線を反射し、窓も小さくすることで日射取得を減らす。夏を旨としたつくり。
・オリーブの葉(Cs気候)
乾燥に強いように小さく硬い葉で、表面積を減らしている。
・オビカレハの巣
糸によって作られた多層構造のテントで、温室のような効果があり室温を30~35℃に保つ。高温の巣の上層部から、巣からぶら下がって風に当たることで、体温調整を行うことができる。
○コメント
前先生:気候だけでなく、文化のルーツも分析できるとなお良い。多摩丘陵の住居は南方からの流れを汲んでおり、それゆえ夏旨となっている。
海流の影響で気候は大きく左右される。
小原:低温多湿の気候は想像しづらい。暖房を焚くとすぐに結露してしまいそう。
続いて1班・亜寒帯のリサーチです。(山本君・北潟君・小松君)
気候と恒温動物の形態の関係を示したベルクマン=アレンの法則を元にして、植物や建築にこの法則をあてはめるための仮説を立てた。
拡張版アレンの法則として、「寒帯における形態は表面積を少なく、温帯における形態は表面積を大きくする傾向にある。」、拡張版ベルクマンの法則として、「寒帯における形態は内部の熱を外部と遠ざけるように内側へ、温帯における形態は内部の熱を外部と近づくように外側に配置する傾向にある。」という二つの仮説の元、亜寒帯の動物・植物・建築をリサーチした。
○ヴァナキュラー建築
・イグルー(カナダ)中村家住宅(沖縄)の比較
イグルーは内部の段差だけでなく、半球体という形態が表面積を少なくする効果を生んでいる。温帯の中村家住宅では屋根は寄棟で表面積が大きい。
・芝の家(アイスランド)
アイスランド北部は牧草地帯で木があまりないために、石積みの上に草を生やして断熱効果を高めている。ボリュームが地下に潜っていることも、表面積を減らす工夫の一つ。
・アイヌのチセ
木組みに屋根を茅葺で作っている。湿潤地域であるため、通風のいい構造になっている。気密性は薄いが、冬になり屋根に雪が積もると厚く積もった雪が断熱効果を果たす。
○バイオミミクリー(動物)
ベルクマンの法則の例として、
ホッキョクグマ/マレーグマ
エゾシカ/ケラマジカ
アレンの法則の例として、
ホッキョクギツネ/フェレック
ホッキョクウサギ/アンテロープジャックウサギ
を挙げた。
○バイオミミクリー(植物)
亜寒帯の植物にとって、日射が少ないことと、凍結することが最大の問題。
ツンドラ気候は永久凍土が点在しているため、温帯のように深く根をはることができない。そのため根は柔らかくバネのように伸縮する。
また、針葉樹と広葉樹を比較しても、針葉樹のほうが表面積が小さく蒸散が起こりにくい。
氷雪藻もしくは雪上藻と呼ばれる藻類は、寒さや夏の日射から葉緑体を守るために赤色の外皮を持つ。
○コメント
前先生: 寒冷地のほうが形態が大きくなるとのことだが、密度は?大きさと密度をセットで論じる必要がある。
空間の大きさには素材の制約の面が大きい。
大沼:一つの法則に結び付けようとした姿勢が良かった。
アイスランドのように、同じ国の中でも気候帯が違う場所をピックアップし、同じ国内・文化圏の中で純粋に気候の違いを比較できたらより明確になったのでは。
最後に4班・熱帯雨林気候・熱帯モンスーン気候のリサーチです。(孟さん・趙君・富山君)
○気候
・クアラルンプール(Af:熱帯雨林気候)
赤道直下を中心に幅広く分布。一年を通して東京とほぼ同じ日射量。東京の8月の気温が一年中続き、年較差はほとんどない。年降水量は240㎜ほど。
・バンコク(Am:熱帯モンスーン気候)
冬から春にかけて乾季。気温は東京の夏程度で、年較差はほぼなく、日較差は東京と同程度。雨季は東西方向の風が強く、乾季は南北方向の風が強い。
○ヴァナキュラー建築
・バハイナバト(フィリピン)
木骨石造の家。湿潤気候によく見られる高床式ではなく、石造の1階と木造の2階からなる。半屋外空間が多くあり、家の中まで風が行き届く。
・台風島の家(フィリピン)
台風の被害が多い地域に建てられた石造の家。壁はモルタルや石灰で塗り固められ、厚さは60㎝にもなる。厚い壁は高い断熱性と蓄熱性を持ち、室温を安定させる。
また雨季の卓越風向には開口が設けられているが、乾季の卓越風向は閉じられている。
・Mycocepurus smithii(中南米の雨林に生息する菌類を栽培するアリ)
集団規模によって2種類の巣を作り分ける。
大集団は垂直方向にまっすぐに掘られたトンネルから、Fungus-gardenと呼ばれる菌類の栽培室がいくつも枝分かれした構造となっている。豪雨の時もFungus-gardenが水浸しにならないための工夫。
小集団は一本道の通路の途中にいくつものFungus-gardenが設けられるネックレス型をとる。
・熱帯植物の葉に見られる4つの工夫
1)ベゴニア:青虹色の葉が特定の波長域の可視光線を反射することで、光阻害を抑制し、効率良い光合成を行う。
2)ベゴニア:葉の表層が透明で凹凸になっている。以前は間接光を効率よく収集するためのレンズと考えられえていたが、実際には表面に保水性を持たせる効果が大きいとされている。
3)ギョリュウバイ属:熱帯雨林の下層部に生息。下層に届くわずかな光を有効利用するため、葉の裏側にある色素が、透過しようとする日射を反射して光合成を行う。
4)イチジク:熱帯雨林の下層の暗く湿潤な空間で、葉の表層を乾かすため、じょうごのような形をしている。
○コメント
西倉:この段階ではこれでいいかもしれないが、拡張する話が拡張。
モデルすべてを肯定するだけでなく、そこから自分なりの仮説、抽象モデルを構築する努力が必要。
前先生:「Global Vision」という、いろいろな地域の生活を同時進行で追うドキュメンタリー番組がある。
http://www.globalvision-tv.com/index2.html
以上で5班分のリサーチ発表が終わりました。
みなさん本当にお疲れ様でした!
短い時間の中で本当に丁寧にリサーチされていたと思います。
ただ、全体的に気候の読み解きが淡泊だった印象があります。
ヴァナキュラー建築も、動物も、植物も、そこで暮らす人々の生活も、全てその気候に何かしら適応しているはずです。建築・動物・植物といった違った要素を統一的に見るために、その根底にある気候をキーワードに分類をしたのです。単純なデータの羅列になるのではなく、その裏に隠れた共通点を見つけられると、なお良かったと思います。
続いて3つのグループに分かれて「風」をキーワードにブレインストーミングを行いました。M1の人たちは、次の木曜までに風のシミュレーションを用いた課題を出題しました。その課題を元に各班活発に意見を交わし、①風環境のテーマ②場のイメージ③空間の型について議論しました。
各班で議論した内容を忘れず、木曜に向けて解析を始めましょう。
最後に、前先生から風の小レクチャがありました。
シミュレーションの限界と、その限界の中で、どれだけ重要なパラメータを抽出してモデル化するか、また得られたデータから何を想像するかが重要です。
FlowDesignerでは風の時間平均を解いているため、細かい渦や揺らぎのようなものは再現することができない。
スーパーマリオは8bitでもあれだけ面白いことができた。シミュレーションでもソフトの制約の中で必ずモデル化・抽象化することで解析することはできるので、この一週間ではそこを徹底的に考えてほしい。
以上です。受講生のみなさん、非常に長い時間お疲れ様でした。
これからシミュレーションも本格化してくると思いますが、TAも全力でサポートしますので、一緒にがんばっていきましょう!