末光様レクチャ+スタジオ内中間講評
5/30のスタジオは末光様レクチャとスタジオ内中間講評を行いました。
末光様レクチャ
「デザインとエンジニアリングの横断」
デザインとSUEP. Labという事務所内研究活動の紹介。
オープンデスク生や外部スタッフを含めて、シミュレーションや実験、リサーチを行う。
○実験
サーモカメラや温度計など、多種多様な器具を用いた実験。
模型でできるので、シミュレーションより簡単。
・葉陰の段床
初期の段階で1/5模型で水をかけて表面温度計で実験を行った。
最終段階では1/1モックアップを作成し、効果を検証した。
・松山の住宅
流線型のスラブを持つ住宅。
1/50模型による簡易風洞実験。精度よりも、おおざっぱな挙動を把握することが目的。
・向日居
Y字のユニットが屋根面で集熱し、ファンで床下に送る。
熱電対を用いた屋根の1/1モックアップによる集熱実験。
・木籠のオフィス
木を籠状に編んだファサードで、自然採光によってオフィスの光環境を作る。
光を透過する断熱材を用いて、モックアップによる採光・断熱実験を行った。
・光壺の家
木密地域で、南側に向くトップライトを持つ住宅。
内装を白く、床を黒くすることで、屋根から入ってくる熱を床に蓄熱する。
・半地下モデルスタディ
実際のプロジェクトに迫られたものではない実験。
スケールの違いから絶対評価はできないが、相対的な温度比較を行った。
○実測と検証
実際の効果を体験したり、データを数字で定量化するといったことを目的とする。
様々な知見を蓄え、応用・発展することができる。
・Kokage
井戸水の輻射冷房効果の実測。
サーモカメラによる表面温度の計測。サーモカメラは非常に高く、一日レンタルするのに7万円ほどかかる。
・葉陰の段床
ミスト噴霧効果検証のため、放射温度計による木過冷却効果の実測。
サーモカメラで外観を撮ると、周りの住宅より冷えていることがわかる。
・向日居
太陽熱集熱効果の実測。
熱電対を用いて、集熱温度や床温度を計測した。
・地中の棲処
土系仕上と緑化による保水効果の実測。
雨を上手く躯体に保水できているか、サーモカメラで検証した。
○シミュレーション
そこで起きる現象をおおざっぱに把握したり、成長する幾何学と連動させることを目的とする。
バリエーションの中から選び出す根拠とする。
・葉陰の段床
気化冷却効率を最大化するパネルの配置。
パネルが最大限日射を受けられるような配置をアルゴリズムを組んで検証した。
・地中の棲処
南から斜面に沿って上がってくる風を受け止める。
・Birdy Terrace
風の広域シミュレーション。
住宅街に広がるクールスポットを繋げることと、母屋と離れの配置の検討。
・光壺の家
風を取り込むシミュレーション。
木造密集地域の路地に吹く風をスタディ。
○成長する幾何学の研究
環境を形の根拠とするときに最も信頼できるツール。
合理性を担保しながら形態生成ができる。
・市原市美術館
風を調整するバラの幾何学。
・Kokage
光を最適化する幾何学。
ツリー型のユニットをトップライトを設けながら変形させる。
・Belle Vue Residences
表面積を最大化する幾何学。
四角いボリュームが表面積を増やすために葉状に発展していく。
・PORUS
空隙率を最大化する幾何学の研究。
市松上にヴォイドを作っていく。
○バイオミミクリーの研究
自然の持つ環境システムを学び、自然界の合理性を解読し、建築に応用する。
・Kokage
木陰の快適性を分析し、建築のシステムに落とし込む。
・Kubomi
半地下の仕組み。
動物の巣に見られるように、自然界にたくさんある窪みを建築空間に適応する。
地面の蓄熱性を利用する。
・葉陰の段床
葉の気化冷却の仕組み。
○設計プロセスの紹介①
・葉陰の段床
敷地の周りにはマンションが建っていて、見下ろされる場所にあった。
最初に施主に見せた、2つの箱に分けたA案と、大きな半屋外のテラスを設けたB案。施主はB案を気に入った。
次に持って行ったのは、土ブロックの市松ルーバーと、アルミパネルのユニットが重なり合うルーバー。施主はアルミパネルの案を気に入った。
環境的なシステムの検討と、プランや空間を並行して進める。
緑化パネルで検討を進めていたが、実際に事務所のベランダで育ててみたが、施主さんは気に入らず、最終的にはアルミパネルに落ち着いた。
この段階で1/5模型での実験を行い、気化冷却のシステムが成り立つか検討した。
その後、成長する幾何学のシミュレーションでパネルの配置検討を行った。
ディテールを詰めながら、1/1モックアップでスタディを行い、完成した。
デザインとエンジニアリングを往復しながら、少しずつ設計していく。
エンジニアリングだけでは空間は生まれない。
○設計プロセス紹介②
・二重屋根の家
山口県下関市の旗竿敷地の住宅。
周りが低層で全く日陰がなく、40mの巨大なルーバー上屋根を作って日射を遮蔽する。
各部屋にトップライトがあり、上屋根とトップライトを通過した日射を取り込む。
全ての日射を遮るのではなく、必要な分だけ、ルーバーの隙間とトップライトから日射を取り込む。
lab.でモックアップを用いた計測調査を行った。
また季節ごとにどのような影ができるのかの日照シミュレーションや、熱負荷シミュレーションを行った。
続いてルーバー配置を決めるための検討。
各部屋ごとに、誰が、いつ、どんなアクティビティを行うのか検証。
代謝量の違いから各部屋の快適温度帯を決定した。
4つのステップからルーバー配置を決定する。
Step1では、季節ごとの太陽の動きと外気温から、取得したい日射、遮蔽したい日射を決め、その太陽位置と重なるルーバーに日射取得・遮蔽係数を与えた。
Step2では各ルーバーに降り注ぐ積算日射量の分布を把握した。
Step3ではStep1,2で得られたコンター図と熱負荷計算から開口率を決定し、Step4で最終的にルーバー位置を決定した。
最後に。
環境的に良いものだけが良い建築ではないし、環境を無視しても良い建築にならない。
最終的な空間のイメージを持ちながら、デザインとエンジニアリングを並行させることが大事。
<質疑応答>
・ご紹介いただいたプロセスにかかった時間はどれくらいですか?
→設計も含めて2年半くらい。普通の住宅は1年で設計を終わらせなければペイしない。
・多くのシミュレーションは、シミュレーションと設計のフィードバックを何度も往復しなければならないですが、葉陰の段床での例のように、Grasshopperを用いてアルゴリズムを組み、アルゴリズムから形態生成していくことについてどうお考えですか?
→アルゴリズムから形態生成するには、自然の合理性の中からどういったルールを抽出するかが大事。
・バラのかたちから風のシミュレーションを行っていましたが、なぜバラを採用したのですか?
→デザイン的な意味と、バラの形状によって風から守られ、流れる空間に魅力を感じたから。
以上がレクチャの内容です。
続いて、スタジオ内中間講評です。
まずはB4から。
・一杉君
斜面の上に建築と土木を一体となって設計する。
・矢吹君
片廊下型集合住宅のリノベーション。
気候差から東京・福岡・札幌を敷地に選んだ。
東京では通風によって快適域が大きく広がる。
・山本君
多治見市の登り窯併設の施設を設計。
既存の登り窯の風の流れを解析。
・能上さん
風を伝える小学校。
従来の風を遮ってしまう小学校ではなく、風を周囲にも内部にも流す小学校を目指す。
<講評>
羽鳥さん(以下H):各自がやっていることが、シミュレーションしなくてもわかるようなことに見える。プレゼンの仕方の問題だが、どう良くなったかわかるような伝え方を。
谷口さん(以下T):最初に行ったリサーチからの連続性が見えない。リサーチから何を発見し、どう面白いと思ったのかこのタイミングで整理するとよいのでは。
末光さん(以下S):登り窯によって生じる様々な温度帯をどう利用するのか考えてみては。能上さんも目的が見えてきた。環境のシミュレーションは、構造と違って何が良いのかパッと見でわかりづらい。見せ方の工夫を考えるべき。矢吹君は、クロスベンチレーションではなく、シングルベンチレーショの可能性を探ってみては。
前先生(以下M):今までのリサーチやプロセスをもう一度振り返ってみると良い。とにかく伝え方。普通じゃない何かサプライズを、どう伝えるか考えてください。
H:まずは既存の問題をきちんと把握する。
T:明確なゴールを設定する。「いろんな場所がある」ではなく、どういった風を流すかはっきりしたイメージを持って設計する。
続いてM1の講評です。
・アリスさん
ギリシャと日本の気候の違いをリサーチした。
ギリシャの風環境は日本より強く、冷たく、乾燥している。
半地下の住居に風を流す。
・小松君
でこぼこで建築を作る。
木密地域を敷地に、全体がでこぼこして風を通す。
・富山君
高層建築群の風環境を考察した。
・藤山君
木材の町として栄えた新木場を敷地とする。
海に隣接した土地で、海からの風を取り込みながら、新木場を木材の町として再生する。
<講評>
S:小松君の案はシミュレーションで何を示しているのかわからない。フラットな状態から一つずつでこぼこができていく中で風環境が変わっていく様子を見せた方がいいかもしれない。
H:シミュレーションの絵はともかく、何を作っているのかわからない。パースを描いて全体像を伝えるようなことは最低限のことであって、環境系だからといって怠っていい部分ではない。
S:全体的にそろそろスタディ模型を作り始めること。アリさんのプレゼンテーションでは、ギリシャの移動しながら生活するライフスタイルが伝わっていないのが残念だった。
H:小松君はスペースブロックと比較して、どういった強みがあるのかはっきり言うこと。富山君は再開発批判するにあたってまずは既存の問題を良く精査すること。
S:環境オリエンテッド過ぎてしまうと、実務をやっている人から見ると突っ込みどころだらけに見えてしまう。
M:操作とリターンのバランスのオーダーが外れすぎてしまわないように。例えば、最小限の操作で最大限の効果が得られるようなサプライズを用意するとか。
S:「風が流れます」というような設定だけだと意外と普通のものになってしまう。全く風が流れない土地で風を起こすであるといった工夫が必要。風だけでなく、風と何かを組み合わせてみるのは大事。
・小林さん
カーテンの心地よさを建築化する。
カーテンが風を受けて膨らんだ形状から空間を作った。
・大國さん
オビカレハから着想した斜めの壁を持った建築。
均質な空間を作るのではなく、斜めの壁で日射受熱量をコントロールし温度成層を作る。
・米澤君
複数のガラスによって日射取得をコントロール。スラブもガラスにすることで室内に入る日射を減らす。
・石綿さん
色の違いによってできる温度差を利用して風を起こす。
西新宿の高層ビルに囲まれた住宅群でケーススタディ。
<講評>
S:米澤君はガラスの厚みの話はせず、枚数のみパラメータとして進めた方が良いのでは。
T:熱環境の話だけでなく、視環境・光環境の話をきちんと掘る。
S:実際にガラスでモックアップを作ってみたらいいのでは。
H:大國さんのは、このスケールで本当に温度成層ができるのか。どういったライフスタイルが生まれるのか。
T:斜めの壁の必然性をもう少し突き詰めたらどうか。
M:小林さんのは、少しめくれ上がったところが突風域にならないか心配。
S:面的なものではなく、風が抜けるものにした方がいいのでは。ただ形態だけカーテンを模すのではなく、ソニービルのようにカーテン内を冷水が流れて涼しいカーテンを作るといった、システムの提案にしてもいいのでは。
M:プログラムが見えてこないから、使われ方をイメージして空間を作ってみては。
高瀬さん;違ったスケールで考えてみては。模型もパースもオーバースケールで小学校としてのイメージがわかない。
T:石綿さんの敷地は風が実際に吹かないのか。西新宿と聞くとビル風が吹いていそうに聞こえる。
M:もっと風が淀んでいる場所を選んできては。
スタジオ内講評の後、個別エスキスに移る前に前先生から小レクチャがありました。
高層ビルの換気方法とクールスポットと通風の関係について。
汗をかく能力がここまで発達しているのは人間と馬くらい。人は1時間に400cc汗をかくことができ、240Wの冷却能力がある。
風を通す、水を撒くといった手法だけではありふれているものと変わらない。そこを超えられるサプライズを。
最後に個別エスキスを行いました。
講師の方・受講生のみなさま、長い時間お疲れ様でした。
次回は6/4(火)です。