アタカケンタロウ様レクチャ+川島範久様レクチャ+M1風課題発表+B4テーマ発表
4月25日(木)のスタジオは、以下の内容でした!
・アタカケンタロウ様レクチャ
・川島範久様レクチャ
・M1風課題発表
・B4テーマ発表
□アタカケンタロウ様レクチャ「ほんとうにそうなのか、どれくらいそうなのか」
芸大益子研究室で助手をされていたころ、ヴァナキュラー建築の実測をなさっている方です。本日は、ヴァナキュラー建築を訪ねて、実際に体感・実測した経験についてお話を伺いました。
以下、内容の概略です。
・イラン 砂漠の住居
まったく開口のない住居が住居として実際に成立していることに興味を惹かれて調査した。以下3物件を調査。
物件1
日干し煉瓦でつくられた、ボールト屋根を持つ建物。
夏は中心部の空間で日中を過ごし、冬は日当たりのいい側面の部屋を使う。
季節によって居住域を変化させることから、「家庭内遊牧民」と名付けた。
実測では、外気温の変動に対して室温の変化が緩やかとなっていたことがわかった。
物件2
中庭型の住居を調査した。
下の写真のように、地下室が掘られていることが特徴。
夏の間は地下に住み、冬になると地上の日当たりの良い部屋に住むという。
・ペルー 湖上の住居
チチカカ湖の上に、草でつくった島に、草でつくった家を建てて暮らしている。
標高は3800mと、富士山より高いエリア。以下2つの物件を調査した。
物件1
トトラという植物でつくられた家。一軒一軒は小屋のように小さい。
壁は5cmの厚さがあるが、屋根はすかすかであった。
実測では、室温は外気温とほとんど変わらない推移をし、最低温度は4度程度とかなり寒かった。
物件2
物件1と同程度の標高にある、石造りの家である。
実測では、外気よりは変動が少なく熱容量の効果が伺えた。
物件1と2の比較
草と石という、全く違う素材であるが、室内温度は同程度であった。
物件1では、周囲の水の熱容量の効果で、周りの環境がある程度緩和されているのではないだろうか。
・スペイン 土中の住居
以下の2物件を調査した。
物件1
柔らかい地質を利用して掘りこんで住居をつくっている。
洞窟住居だが、内部空間は小屋のような形をしており、「建物らしくありたい」という欲求が伺える。室内は白く塗られ、光を少しでも奥に届けようという工夫。
実測では、外の増築部では外気温と同様の変動をするのに対し、洞窟の一番奥の部屋では日中23℃程度で一定であった。
物件2
崖に埋め込まれた住戸群。
オーバーハングした崖の下にファサードを挿入し、内部空間を作っている。
特徴的なのは、内部に崖の岩肌が露出していること。
物件1と対照的に、建物らしくというより、「岩に寄り添いたい」という考えが伺える。
実測では、崖下の室内温度の変動は、崖上の室内温度の変動より小さく抑えられていた。崖下の室内温度は20℃前後でほぼ一定。
・ベトナム 熱帯の住居
以下3物件を調査した。
物件1
ムオン族の民家。もともとは竹の床だったが、現在のオーナーが床や壁の一部に板を張って使っている。
実測では、室温は外気とほぼ同じような変動。
物件2
片面にほとんど開口がないため、あまり風が流れない。
室内では6台の扇風機が稼働していた。
中心に先祖をまつる祭壇があることが特徴。
実測では、室温は30℃を下回らなかった。
物件3
ホイアンの町屋。奥行きが60~70mもある。
一番奥には先祖をまつる空間があり、そこに至る通路が建物を貫く。生活の中心に祭壇があるようである。
実測では室温はほぼ30℃程度。
・4地域を訪れて
実際に行ってみて感じたのは、必ずしも我々の今の体で行っても快適ではないということ。快適と感じるレンジや、そのセンサーが現地の人と我々で異なる。
我々は空調された空間に慣れてしまっており、微妙な湿度の変化などから快適感を得るには鈍感になっていまっているように思う。
・設計課題に関して
今までの環境を重視した建物は、重視しているというのが出過ぎてしまっていると思う。それが居心地を悪くしてしまうことも。
今回の設計課題では、そのバランスを意識して設計を進めることが大切。
・質疑応答
末光先生…現地に行く前の視覚情報からのイメージと、実際に行ってみて体感した環境の差について伺いたい。また、空間のボキャブラリーに引っ張ってこれそうなアイディアはあったか。
→たとえばベトナムの住居では、風が通り抜けるような建物の写真を見て涼しそうと想像していた。実際に行ってみて、涼しいとは言えなかったが、深い庇の影は視覚的に涼しさを感じさせてもいた。
自身の設計では、環境的なアイディアをメインの構成とすることはなかったが、今少しずつ当時の経験の影響が出てきているように思う。
頭の片隅に、こういう空間になった方がいいという環境のイメージを持っている。
□川島範久様レクチャ「環境とエネルギー カリフォルニアにおけるサステイナブルデザイン」
講師の川島範久様から、バークレーでの体験についてお話をいただきました。
以下、内容の概略です。
・LOISOS+UBBELOHDE事務所について。
日本では意匠設計者と設備設計者が明確に分かれているが、
LOISOS+UBBELOHDE事務所では、設計も環境コンサルもやっている。
設計に関わる部分から仕事に入る点が大きく違う。
昔は模型実験で光環境を分析したり、コルビュジエの建物の実測をしていたこともあり、環境的な分析を長く行ってきている。
・カリフォルニアで学んできたこと
1.カリフォルニアにおけるサステイナブルデザイン手法
2.それを支える社会システム
・自身のプロジェクト
福島、徳島、沖縄でのプロジェクトでは、上記の経験を踏まえ、
まずは可視化してみることから始めた。
気象データを徹底的に可視化する。
自分の実感のある東京と比べながらそれぞれの気候を分析。
気候にうまく対応している現代建築のリサーチも同時に行った。
勝手に想像する前に、まずは客観的に可視化してみるということが大事。
自分の身体感覚を拡張するために気候の分析ソフトは非常に有用。
・なぜアメリカ、カリフォルニア、バークレーか
カリフォルニアの一人当たりのエネルギー消費は1973年から横ばいである。
カリフォルニアでは、最先端の技術をどうやって市民に届けるかということが常に考えられてきた。
そして、それを支える社会システムが存在する。
例:デカップリング制度 電力会社が発電量を減らすほど儲かる仕組み
例:法令化されている title 24
例:LEED ブランディングとしても役立つ
例:AIA建築賞 シミュレーション結果とセットでないと応募できない
社会全体でエネルギーを考える体勢づくりをしている。
・快適性とは
難波先生は、「建築家が物理的・身体的な快適性にあまり興味を惹かれないのは、共有感の弱さにあるのではないかと思う。」と述べている。
http://10plus1.jp/monthly/2012/09/post-55.php
快適とは何か、深く考えなければならない。
・どのような新しく豊かなライフスタイルを、どのように少ないエネルギーで実現できるか。
環境を二つに分けて捉える
ポリティカルコレクトな快適性
クリエイティブな快適性
都市システムの再考
都心と郊外、職場と住宅の快適性、交通
ヒューマンビヘイビアの再考
そもそもの働き方、暮らし方
・質疑応答
矢吹くん…ポリティカルコレクトネスな快適性、人間的な快適性など快適性にはいろいろあるが、それらをどう扱うのか。
可視化するという科学と、どうジャッジするかという側面がある。
ジャッジの仕方は人間次第ではないか。価値観次第であると思う。
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□M1風課題発表
つづいて、M1が一人2分ずつ、風課題の発表を行いました。
□米澤くん
変数を厚さとした提案。
乾燥帯の暑い地域、厚さを増すことで断熱性を確保している。
厚さを操作したとき、風の振る舞いはどうなるかを検証した。
厚さを増せば開口を通る風の流れが安定する場合もあれば、途中で弱まってしまうこともあった。
→講評
・建築のなかで操作するのがよいのか。都市に離散的に配置するのもいいのではないか。
・開口の出口の大きさを操作すると、だいぶ風の流れが変わるのではないか。
・熱と一緒に解けたらいいのでは。
・右下のシミュレーション結果がおもしろいと思った。厚みを変えるという操作は、開口が両側に取れない場合の住宅にも応用可能。
□北潟くん
建築のボリュームの中に、光、風、熱を取り込むために一番シンプルな方法として、
穴を開けてみることを考えた。
マスにドーナツ型の穴を開けてみることをスタートに、開口をくねらせてマスから抜いてみた。
風速が弱くなるかと思ったら、案外風が流れることがわかった。
次のスタディとして、チューブを組み合わせてみて、立体的な迷路のような形状を考えてみた。壁一枚隔てた空間で全く風の吹き方が変わったりした。
→講評
・ここから法則が導けたか。
L字が次にどうやって折れ曲がると、どういった振る舞いとなるのか、ということを
もっと詳細に見た方がよいのではないか。
いきなり形をたくさんつくってしまうのはもったいないのでは。
□大國さん
中庭型の住戸を考え、中庭で風を弱める提案。
屋根形状を変えることで、中庭に吹く風がどう変わるかスタディした。
20形状でスタディした結果、一番空気が流れる形は6番目のパターン。
→講評
・風が出るところに関しても提案があると、風の振る舞いが変わるのではないか。
・今は中庭に吹く風を快適にしようとしているが、今できている風圧差を読み解いて、室内にどうやって風を導くかが次のステップ。
・このなかでは6番目のものがいいということだが、次はフラットなボリュームからこの形にだんだん立ち上げてみて、どこでやめるのがいいのか、その差異を微細に見るのもよいのではないか。
□富山くん
テーマは風の速さを調整して、速すぎる風は減速させること。
スポンジ状のボリュームは樹木モデルを使用。
箱の集合のモデルに関しては、箱の間の風速は弱まっており、背後に対しては防いでいる。
どういうパラメタが効いてくるのかに関してはボリュームの充填率の操作をしてみた。結果、箱の間のスパンが効いてきていることがわかった。
→講評
・防風林の配置やビル風に関してリサーチを進めるとよい。
・圧損パネルと違い、三次元的な分布が生まれるのがおもしろい。
□石綿さん
川沿いの涼しい風を住宅地に流すということがテーマ
川沿いに風が流れているため、川沿いの住宅で涼しい風を町に流すように考えた。
様々な屋根形状でスタディした。
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★ここまでの5人の講評
末光先生
どういう目的でこのアイディアを使うのか、漠然でも考えながら進めた方がよい。
そのへんのイメージがあるのかどうかが少々心配。
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□藤山くん
ビル風のような不快なものを室内に取り入れて利用できないか。
まずはビル風の振る舞いを把握するためにシミュレーションを行った。
ビルに開けるボイドの位置を変化させたスタディ、後ろの建物を仮想的にスラブだけにしたスタディを行った。
→講評
・まずはビル風についてさらにリサーチすること。
・どう利用したいかが明確になっている。
□ちょうくん
下に吹き下ろしたビル風を下側の建物で取り入れて利用できないか。
各階に風の受け取る率をパラメータとして、アトリウムに隣接する各階の床スラブの寸法を調整するスタディをした。
→講評
・下に吹き下ろす風を利用するのは、駐車上などでは実現されている。実現されている案を越えないといけない。
□小松くん
風体験 タイの電車で、顔を外に出したら気持ちよかったという経験
変化量が気持ちよさを呼び起こしている。
シークエンシャルな風の体験をつくれないか。
高さのある空間、へんぺいな空間、ビルの屋上のような発散する空間
それぞれの空間の組み合わせで、つなぎ目に風環境の変化をつけられないか。
→講評
・原体験から建築を考えているのが良いと思う。
・小松君は時間的な視点を含んでいる。非定常計算をするべきである。
・定常計算で3つの風向を計算するのと、前の風向の影響が残っている中で別の風向の風が吹いたときでは反応が違うはず。
□小林さん
カーテンの動きがおもしろいとおもった。
魅力的なのは、風が一旦入って、出て行く時に風速が上がり空気のかたまりのようになること。
→講評
・小林さんの提案は、風の質を丁寧に考えている。
・小林さんの案、現象としてはおもしろいが、工学的にどうやって評価するのか。これだからよい、ということを他人にも説明できないと行けない。
そこをどうやって客観的に証明していくのかが問題。
・原体験から建築を考えているのが良いと思う。
・小林さんは時間的な視点を含んでいる。非定常計算をするべきである。
・定常計算で3つの風向を計算するのと、前の風向の影響が残っている中で別の風向の風が吹いたときでは反応が違うはず。
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★ここまでの講評
末光先生
皆それぞれかたちの特徴が出てきている。
できあがってきた空間の空間的特性を、どういう空間に利用出来そうか、
意識することが大切。
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□B4テーマ発表
つづいて、B4がテーマ発表を行いました。
□一杉くん
エネルギーを集めることで何かに使えないか。
水道の水に着目した。
水の流れを外に開くことで快適な都市空間をつくる。
→講評
・位置エネルギー的な側面を考えているのか、単純に水として見ているのか
・水は熱容量の大きな物質、水に変わる物質もあるかもいしれない。
□能上さん
緑化をテーマに体積は変えずに、表面積が増えることで緑化の効果を大きくできないか。
アイスランドの例から勾配屋根でも緑化ができる。
交通の多い、環境の悪いところでも緑化が可能。
舗装率が1930年から1990年で大幅に上昇している。
緑化の提案で都市問題にも貢献できる。
→講評
・緑化はポリティカルコレクトネス的な側面が。
今までの人がやっていないような提案があるとよい。
オリジナリティが出せればよい。
・緑化という言葉を、「土」という言葉に置き換えて考えてみればいいのではないか。
・身近に感じられる、都市的な規模の気象現象という話だったが。前回の話から多少脱線してしまったのでは。
□孟さん
前回熱帯を調べて面白いと思ったことから、
敷地をフィリピンにした。
台風がくることが大きな特徴
住民+観光客のための複合施設の提案。
→講評
・住宅なのか、大きな施設なのか
・一つの大きな建物なのか、分散的に配置するか
□矢吹くん
都市のバナキュラーに注目した
バナキュラーの概念を整理した方が良いと思ってリサーチした → 固有性+一般性
インダストリアルバナキュラー → 制度・体勢
建築家なしの建築 →土地
今普及しているマンションを原型としてヴァナキュラー建築から建具を抽出し様々な気候に対して最適な組み合わせを適用する。
東京・長野・福岡の3都市を敷地として選ぶ。
→講評
・抽出するものをコントロールすることが大切。パラメータをしぼったほうがよい。容積、戸数などをまずは設定する。経済原理主義が主流なのも一方では現実であり、リアリティは大切。
・バナキュラー建築からどうやって抽出するつもりか。
裏にひそんでいる一般性を発見していくということが大切。
地域の事例から一般性を見いだすという方向性。
・原型(マンション)にどういった問題があるのかも明らかにしなくてはいけない。
・集合住宅は戸建てより熱的に有利となる。
庇の効果より実は集合している効果の方が大きいかもしれない。
□山本くん
盆地に着目した。夏は熱がたまり暑く、冬は寒い。
岐阜県多治見市が歴代最高気温を観測している。
気象データを見てみて、多治見市と東京であまり変わりがないように感じる。
風が体感温度の大きなファクターとなっているのではないか。
岐阜県は木材の山地であり、地産地消を考えたい。
形状に関しては、縦方向の分布密度の違いについて考えたい。
→講評
・住宅スケールではなく、もっと大きいものを考えているのか。
・気候データを詳細に読み解けるとよい。
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★全体の講評
前先生
それぞれ個性があり、段階に応じたアドバイスがある。
それに応じてぴんと来るアドバイスを取り入れて進めていって欲しい。
GW中には掘るテーマをフィックスできるとよい。
B4の人はM1の人の進め方を参考にするとよい。
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本日も非常に盛りだくさんの内容でしたね!
講評を受けて、さらに案を練ってみてください。
次回の皆さんの発表を楽しみにしています!