130411 前スタジオキックオフ
前スタジオ2013、いよいよ始動です。
プログラムは
1.前先生からのレクチャ
2.末光様からのレクチャ
3.ecotectに関するレクチャ
4.ecotectのデータを見ながら、世界の気象クイズ
5.気候帯ごとのヴァナキュラー建築の説明
と、いきなり盛り沢山でした。以下、要約をまとめます。
1.前先生のレクチャ
前先生からはエンジニアサイドの教育者としてスタジオ受講生に大切にしてもらいたい、期待したいことを話していただきました。
以下はレクチャのおおまかな内容です。
エンジニアサイドの教育者として、今回のスタジオで大事にしたい事は以下の二点。
データに想像力を
原理原則の探求
<データに想像力を>
「敷地調査に行ってみないとわからない」ではなく、データから何を読み取り、そこからどういった物語を紡ぐのか。
かつて、情報がとても少ない時代にヘロドトスが書いた地図は完璧ではありませんでした。でもそこには人々をまだ見ぬ異国の地へ思いを巡らせる想像力があった。
シミュレーションについて言えば、スーパーマリオは現在では考えられない低スペックのCPUとメモリで全世界の人々を夢中にした。いつの時代にもコンピュータの能力が足りないという問題はある。大事なのはその限界の中でいかに工夫し、おもしろいことをできるか。
<原理原則の探求>
ヴァナキュラー建築の形が環境によって決まっていると考えるのはよしたほうがよい。ただし、表層をなぞっただけで「環境でカタチは決まらない」という結論に至るのはあまりにも尚早。表面には出てこないものから学ぶためには原理原則に基づく探求が不可欠。
表層ではなく、原理原則から学ぶことで成功した例として「空を飛ぶ」があげられる。何世紀もの間、人類は鳥のはばたきを模倣することで空を飛ぼうとしていた。しかし、結局、飛行に成功したのは自然の模倣をやめたライト兄弟。
「はばたき」という行為に現れる「表層」ではなく、推力と揚力という「原理原則」に基づいた設計が人類に空を飛ぶことを可能とした。
<結び>
建築を突き詰める
自動車のエンジンにおける燃費、データセンターにおける空調などはミッション・クリティカルなので、CFDなどを駆使して突き詰めた設計をしている。建築だってまだまだ突き詰めた設計をできると思っている。
このスタジオには「データに想像力」を持ち、「原理原則の探求」の末に「突き詰めたカタチ」というものを期待している。
末光様のレクチャ
末光様からは自身が建築に対して考えていることを自身の作品の紹介を通して話していただきました。
以下はレクチャのおおまかな内容です。
現在、設計で考えている建築について
1.自然の秩序に従う美しさを持つ建築
2.人のふるまいを自然に誘発する建築
3.自然の循環系の一部となるシステムを持つ建築
それぞれの作品を設計プロセスにおけるシミュレーション、実験について織り交ぜながら説明していただきました。
1.Kokage 「木陰」の快適性を翻訳する
敷地にある庭の快適性をいかに取り込むかを考え、柱と頬杖で構成される10本の構造ユニットで全体を構成した。諸室の広さによって構造ユニットの梁部分の長さが決まり、それに対応して、頬杖の長さも変化する。構造ユニットに水を循環させ、輻射冷房システムを採用。
竣工後、提案した輻射冷房システムがどれだけ効果があるのかを実測
2.Kubomi 「窪み」の快適性を翻訳する
生垣の多い地域で、二種類の半地下状「窪み」を持った住宅をデザインした。地中の温度安定性と窪みのプライバシーをリンクさせて解いている。サーモスラブという地中蓄熱型の床暖房を採用。
スタディでは模型を使って、半地下による温度の振る舞いを実測。
3.地中の棲処 「地中」の快適性を翻訳する
急な斜面地を逆に利用した住宅。立体的な測量など、詳細な実測によって場所ごとの性格を見抜き、住宅のプログラムを当てはめていった。夏であれば、開口を向けている方向から風が吹くと建物を通る間に風が冷やされていくのが実感できる。表面の土壁仕上げが雨を保水し、表面温度を下げてくれる。
建物の配置と風の通り方の違いを可視化
4.葉陰の段床 「葉陰」の快適性を翻訳する
小さなプレート状のルーバーによって住宅に微気候を作る。蒸散作用をルーバーに採用することで葉陰の快適性を翻訳した。一見ランダムに見えるルーバーパネルの配置は、光という環境要素を考慮したアルゴリズムによって決められている。
スタディでは1/5の実際に使用する多孔質素材で作ったルーバーのモックアップに水を含ませ、表面温度の変化を測定。5℃ほど下がることを確認。
5.Birdy Terrace
クールスポットのネットワークをつくる。緑地に囲まれた敷地に大きな箱と小さな箱を配置、テラスがそれらをつなぐ構成。コンクリートと木造の熱容量の違い、地下と地上の温度状況の差を組み合わせた設計。
周辺から風を取り込みうる建物配置をflowdesignerを用いて検討
6.九州芸文館
クスノキと建物を共存させるデザイン、樹木の根を傷つけないための構造的配慮、ハンモック状の床と天井。
スタディでは季節による樹木の影のあり方をシミュレーション。樹木をうまく使いながら日射の遮蔽、取得を考えた。
3.ecotectに関するレクチャ
前先生のおっしゃっていたデータから想像力を得るためのツールとしてTA清野からectectに関するレクチャがありました。
詳細は省略しますが、建築設計のヒントとなりそうな、機能がたくさん紹介されました。受講生の方はうまく使いこなして、想像力をかきたてるようなデータを見出してください。
4.ecotectのデータを見ながら、世界の気象クイズ
続いて、ecotectで表示されるmonthly dataを使って、世界の気象あてクイズをしました。
皆一生懸命考えていました。
頭ではわかっていても実際に世界各国の一年間の気象データを比較すると、いかに気象の変化に富むのかが見えてきますね。
私達が普段当たり前に思っている建築を設計する上での前提条件ももしかしたら絶対的なものではないかもしれません。
5.気候帯ごとのヴァナキュラー建築の説明
最後にTA中島から来週木曜までの課題について説明がありました。
課題は、4.ecotectを使った気候あてクイズで出てきた「気候帯特有のヴァナキュラー建築、生物を調べてくる」というものです。面白い案を楽しみにしています。
初日からだいぶハードな一日でしたね。
前スタジオはツールをたくさん使うので、4月中にしっかり覚えることがその後のスタジオのために重要となってきます。TAとしてもサポートしていくので、皆さんがんばりましょう!